農泊に農村の未来はあるか?

ふと今日、こんな企画書を目にしてしまった。

 

「農泊」への歩みを進めよう!

 

この「農泊」という言葉の意味は、とても分かりにくい。

ちょっと調べてみたところ、「農泊」とは、「農家民泊」の略ではなく、「農山漁村において日本ならではの伝統的な生活体験と農村地域の人々との交流を楽しみ、農家民宿、古民家を活用した宿泊施設など、多様な宿泊手段により旅行者にその土地の魅力を味わってもらう農山漁村滞在型旅行を指すらしい。

農泊を中心とした都市と農山漁村の共生・対流:農林水産省

 

ようわからんけど、農泊≒宿泊付きグリーンツーリズムという解釈でよさそうだ。

 

察するに、なぜこんなにややこしい定義づけになっているかというと、現在の法律上「民泊」は違法行為(民宿はOK)であるからだと思われる。

 

うっかり、「農泊」という言葉が誕生してしまったのだけど、それを「農家民泊(≒違法行為)」とイコールで結び付けられてしまうことだけは、行政としては絶対に避けなければならなかったのだ。

 

まったく、この企画の担当者の苦労がしのばれる。

 

ちなみに、平成30年度の6月に通称、民泊法という法律が施行される予定であり、この法律の施行によって、制限つきではあるが民泊が認められることになる模様。

 

ようやく、変な呪いが解けるのだ。というか、何で「農泊」という名前にしてしまったし。

 

この企画に話を戻そう。

この企画は、このよく分からん「農泊」なる存在の認知度向上と、その認知度イマイチの「農泊」に取り組む人の掘り起こしと、さらに旅行会社とのビジネスマッチングにより、その定義すらあいまいな「農泊」のビジネス化の支援までやってしまうという、まだ生まれたばかりの赤ん坊に、空中ブランコを教えようとするような鬼スパルタな企画の模様。

 

なぜ、こんな10段飛ばしで階段を駆け上がるみたいな企画が出来上がったかというと、2020年の東京オリンピックの際に日本の宿泊需要が急騰することを見越して、国がものすごく壮大な目標を立ててしまったからと推測される。

 

まったく、この企画の担当者の苦労想像すると、類似業者としては涙が出そうになる。

 

この企画では、農林水産省が、「農泊」の定義について、一生懸命説明したあと、観光庁が自身の取り組みを一生懸命紹介してくれるそうだ。

 

そのあと「旅行業者等」が、国内外の観光客が宿泊つきグリーンツーリズムに求めているものを教えてくれるそうだ。

 

 

私は、この「旅行業者等」がものすごーく引っかかるのだ。

※ここから旅行業者等に関して、若干批判めいたことを書いていますが、あくまでも営利企業が市場の原理に則って行動するとどうなるかという観点で、自分なりに予測してみただけです。ビジネスや集団旅行の際には、私自身とてーも旅行会社さまに頼りきっており、心から信頼を寄せている旨を補足させていただきます。

 

 

ちなみに、このイベントにおける次の演題は、「農泊地域と旅行会社等との連携事例」であり、その次は「農泊地域と旅行業者等による事業紹介」と題するビジネスマッチング。

 

ネットの発達などにより、これだけ個人手配旅行が広く普及したのに、なぜかたくなに旅行業者等にこだわるのだろうか?

 

個人旅行が旅行代理店のお株を奪っている例を具体的に挙げようと思ったのだが、とりあえず「個人旅行 旅行代理店への影響」でググって見たら山ほど関連記事がでてきたので、その必要すらないみたいだ。

 

 

本当に、個人旅行の普及は著しいものがあると思う。私自身、個人旅行で海外に行くことが何度かあったが、その快適さ、安価さに驚いたものだ。

 

個人旅行の界隈では、民泊斡旋サイトのairbnbが有名だが、私はホテル予約サイトのbooking.comがお気に入りだ。

 

booking.comで予約する場合、大体がキャンセル料無料で済むうえ、決済は現地で現金で支払うことができ、とにかく予約が一瞬で終わる。

 

また、個人旅行では、宿泊先が信頼に足るかどうかがとにかく心配だが、これらの予約サイトではレビューの投稿数が多く、安心してホテルを選ぶことができる。レビューが集まりやすくなる仕組みがサイトに組み込まれているのだろうと思う。

 

当然、旅行代理店の紹介するでかいホテルに比べれば、安心感は高くないが、ビジネスの旅行でなければ、私の場合そこまで気にしない。

 

また、どーしても不安であれば、補足的にtripadviserなどのレビューサイトも活用すれば、さらに多角的な情報を集めることもできる。

 

なお、booking.comはホテル予約サイトを標榜しているが、実際に海外では民泊施設等も数多く登録されており、1年ほど前にウラジオストックに行ったときに調べた限りでは、airbnbと登録物件に大差はなかった。

 

少し話がそれた。

 

とまあ、これだけ個人旅行に必要なインフラが民間で整えられている状態で、今後も個人旅行は伸びると私は思っているのだ。

 

 

旅行業者等 × 農泊(宿泊つきグリーンツーリズム)の組み合わせに対して、不安を覚えるのはそれだけが理由ではない。

 

旅行業者と農泊に取り組む人の間に、対等な交渉が成り立つのかがとても心配なのだ。

 

なぜなら、農村に住む人はとにかく「お客さんをただでもてなしてしまう習性」があるからだ。

一つ思い出したのが、まだ地元に住む学生だったころ、ふらっと近所にある父方の実家に一人で遊びに行ったときのことだ。

いつもなら、ばーちゃんやおばさんが出てきて、お菓子を出してくれたり、野菜を持たせてくれたり、かいがいしく世話をしてくれるところなんだが、そのときはたまたま不在で、じーちゃんしか居なかった。

じーちゃんはそのころ、すでにちょっとボケとかほかの病気とかが始まってて、正直おもてなしなんてできる感じの状態じゃなかったんだけど、フラっと台所に消えて行ったかと思うとバナナを一本持ってきて、黙って渡してくれました。

じーちゃんなりに、なんとかおもてなしをしたかったのだろうなと思うと、とてもじーちゃんがかわいく思えたのを覚えている。

 

そういう習性に加えて農村に住む人は、自分の地域の持つ潜在的価値に気づいていないことが多い。つい、謙遜して「ウチには何にもないから」と、自分で自分の価値を低く評価しがちだからだ。

 

最悪の最悪、昔から地域の共同作業やお祭りの際の無償労働に慣れ親しんでいる地域のおじいちゃんやおばあちゃんは、地域のためならと、うっかりただ働きしてしまう事態さえ想像できる。

 

 

そこに、最近個人旅行に客を奪われておなかペコペコの旅行代理店を、不用意にマッチングしてしまったら、どんなことが起こるだろうか?

 

確かに旅行代理店の力があれば、宿泊つきグリーンツーリズムのプロデュースには成功するかもしれないが、その暁にはとんでもないマージンを持っていかれかねない。

 

もちろん、プロデュースがうまくいかなかったときはお察しである。 

 

たとえ、地域志向の良心的な旅行業者と組んだとしても、大規模収容が難しい農泊≒宿泊つきグリーンツーリズムは、既存の観光都市のようなスケールメリットがとりづらく、運営コストがかなりかかるはず。

 

これで、いったいどれだけのお金が直接地域に残るだろうか?

 

 

やはりまずは、個人旅行相手の事業に取り組むべきだと思う。

 

なんといっても、やっぱりマージンが安い。airbnbの場合、宿の経営者には3~5%のマージンがかかり、あとはお客さんから5~15%のマージンが掛かる仕組みのようだ。

「Airbnbサービス料」とは? | Airbnbヘルプセンター

 

あと、まだ日本ではairbnb=違法みたいな印象が強いが、最近のニュースによると例の民泊法の施行に合わせてairbnbも法に適合しない物件を削除する方針を打ち出したそうだ。

エアビー、違法物件を排除 民泊法施行にらむ :日本経済新聞

 

これは、「合法化より安心感が高まる」という意味ももちろんあるが、本当に重要なのは、airbnbが「法律に則って運営しても、ビジネスモデルが成立すると判断した」ということである。

 

で、あれば、今後予想されることは、airbnbが民泊法に則った物件を増やすために、「素人でも分かる民泊法マニュアル」を整備してばら撒いたり、「民泊法代理申請サービス」を展開することだ。

 

とにかく、個人で法律の問題を突破する手段が一気に増えるのは間違いない。

 

また、airbnbは他の国でも法律上の問題を、時には行政の指導に寄り添い、時には政治活動で法律の壁をこじ開けるようにして克服してきた。

 

今回も民泊法の細則の検討段階において、何らかの根回しをしている可能性は十分ある。

 

 

まずは、これらの新しいインフラを活用して、とにかく最小単位で試験的にビジネスを行うべきだと思う。

 

 

そうしていく中で、いくら講演会に出席しても分からない、自分たちの地域の外から見た本当の魅力や、それに対して実際どのくらいのお金がもらえるのかということについて、実を持って学習することができると思う。

 

旅行会社と組むのは、そうやって勉強した後、経営の多角化をする際に考えればいいことだと思う。

 

 

そうそう、ちょっと前に空き家の活用の話題が出たとき、「仏壇があるのでほかの人に家を譲ったり、貸したりなんてできない」という問題が、割と深刻な問題になった。

 

個人的には、農泊の場合はこれも強みに転換できると思う。

 

ちょっと想像してもらいたい。

 

とある外国人が農村の古い仏壇のある家に泊まりにきたとしよう。

管理人がばあちゃんが鍵を開けて部屋に案内するときに、「ほら、あんたもご先祖さんにお参りばしんしゃい!」と、言って一緒に仏壇にお線香をあげさせ、鐘をチーンと鳴らさせてあげたらどう思うだろうか?

日本の農村に残る仏教の寛大さと包容力に触れ、感動して涙すら流すのではないだろうか?(もちろんすっげー嫌がられる可能性も大だけど笑)

 

今、そういう生の文化に触れることが海外の個人観光旅行客の中で、もっとも求められていることだと思う。私も海外旅行に行くときは、そういう体験を求めているからそう思う。

今、そういう生の文化に触れることが海外の個人観光旅行客の中で、もっとも求められていることだと思う。私自身も海外旅行に行くときは、そういう体験を求めているからこそそう思う。
 
 

何??言葉の壁?

うるせー!!そもそも普通の日本人でもじーちゃんばーちゃんのネイティブ方言は理解できねーよ!!
 

 

 

なんにせよ、この動乱のなか「農泊」をうまく活用して、農村に明るい未来があることを、そして「農泊」の担当者に十分な睡眠時間が与えられることを祈るばかりである。