冬のイルクーツク、バイカルツアー(2018.2) その10 まとめ
こんな感じで、私のシベリア旅行は本当に、これまでの旅の中で最高のものだった。
「金も、時間もあまりかけたくない、だけど誰も体験したことがないようなことをしたい」
そういう私のねじ曲がったわがままな欲望を完璧に満たしてくれる旅行だったと思う。
旅行から帰って2か月経とうとしている今でも、透明な氷の上に立っているときのあの感動が恋しいくらいだ。
一つ、心配なことを挙げるとすれば、なにかとシベリアの観光業が未熟で無防備すぎることである。今回利用したガイドも、現地までの往復500㎞のドライブに加えて、3日間のガイド+二泊三日の宿食事と犬ぞりがセットで、20000ルーブル行かなかった。これは大体35000円くらいで、しかも、これにはバイカルの国立公園区域に侵入するための許可もセットで、現地の悪路を乗り越えるジープ運転手代も込みである。
このガイドは特別安いほうで、ほかの会社で手配するとその倍はかかる。
ただ、正直それでも全然体験できる内容と、その唯一無二であること、ガイドがいなければとても到達できないことなどを踏まえれば全然妥当な価格だと思う。
その今回使わなかった高い会社の料金は、4travelで事前に読んだ記事と比較すると、倍くらいに値上がりしている。
たぶん、それだけ需要が上がってきているのだと思う。人が増えれば、それだけマネジメントも大変になるし、何よりいろんなインフラ面での投資も必要になるだろう。
今回は、そりゃもうありがたく使わさせてもらったが、本当は今回利用したガイド会社はもっと料金を上げるべきだと思う。なんだか、そうしないとそのうち中国の旅行代理店やらなんやらがのさばり始めたときにはすさまじいマージンを持っていかれることになりそうだ。
それとも、敢えて小口の個人旅行客をターゲットに絞って、特別にアットホームなプランを提供し続けるというならそれもいいのかもしれないけど。
バイカル湖周辺は、観光地としては本当に未熟で、スーパーや居酒屋以外にはほとんど店もない。お土産を買おうと思っても、イルクーツク空港に売ってたアザラシの写真がプリントされたキーホルダーやら、バイカル湖の同じ画像を使ったキーホルダーみたいなものしかない。
これ、ちょっと頭使って、中国人が安くてなんかよさげなお土産屋さん作ったら、あっという間にそっちにお客を持っていかれてしまうだろう。
この地域はロシアとモンゴルの中間で、清の時代は中国とも国境を接していた。清との貿易はここから南の街で行われており、イルクーツクも貿易において重要な役割を果たしたらしい。榎本武明のロシア紀行にも、お茶を運ぶ馬車と何度もすれ違う様子が描かれていた。
そんな感じで文化・歴史的な背景は十二分にある地域だから、たぶんもっといいローカルの民芸品とお土産になるものがあるんじゃないかと思うのよ。正直、そういうのに出会えなかったのはちょっと残念だった。
バイカルの氷の美しさは、本当に言葉にできないほどで、SNS全盛のこの時代、たぶん時期に情報は拡散され、たくさんの観光客が訪れるようになると思う。
その時に、たぶん中国人をはじめとした外資系の開発事業なんかも起こるだろう。国立公園であるこのバイカルを守れるのはまず、ロシア政府であると推察するが彼らが中国人に札束で頬を打たれて、このバイカルをあっさり明け渡してしまったりしないか心配だ。
そういう意味で、やっぱり現地の事業者も自己防衛が必要になると思う。現に、イルクーツクの街中ではすでにパチモンのレストランが、観光客に劣悪な料理を食べさせていた。
バイカル湖は世界遺産の登録要件を4つ(①際立って美しい景観、②地球史上重要、③生物の進化プロセスを示す、④豊かな生物多様性)も満たしており、格の高いものだと考えられるが、世界遺産に登録されたのは1996年と割と最近の話である。共産主義時代のロシアには、世界遺産なんて無用のものだったのかもしれないが、このバイカル湖が観光地としてまだ未熟なのも納得である。そして、それ故に今後この美しい湖が守られるかどうかとても心配である。
この素朴で美しい湖が、その価値を確立させる前に、ブランドが棄損されることがないといいなと心から思う。