感想 ひろゆき著「働き方完全無双」

読んで一番最初に思ったことが、

 

「案外フツーやな」

 

ということです。

これは私としては、いい意味でこう述べているつもりです。

ひろゆきこと西村博之氏は、2chの創始者として特にネット界隈を中心として有名だが、その一般常識にとらわれない明晰な頭脳と、歯に衣着せぬ物言いでしばしば話題を呼ぶ人物だと私は認識しています。

 

当方、怠け者の人間故、働き方に関しては日ごろから思うことがあるのです。

ただし、所詮一つの仕事しかやったことのない若造、たぶん自分の考えには自分も気づかない無意識の偏りや、それまで考えもしなかった盲点があるに違いない。

 

そこで、私としては、そんな博之氏に、私がこれまで積み上げてきた持論の盲点を突いてくれることを期待してこの本を手に取ったところでした。

 

ところが、どっこいこの本を読んでみると、ところどころに博之氏らしい個人主義が垣間見られるものの、いずれの内容も至って突飛なものはなく、非常に誰にとっても役に立つような至って建設的な提言がなされていました。

 

実のところ思い起こしてみれば、目からウロコがでるような新しい視点というのは、その新しい視点に気が付いたからと言って、ごく一般的な意思の強さと体力の人間がそう簡単に実行に移すことができるものではないことが多いと思う。

 

割とありがちな例を出すと、転職の話がそうだ。

 

日本の終身雇用制度はもうほとんど崩壊しかかっているので、これからは個人が必要なスキルを身に着け、特定の企業に頼らないで生きることができるように転職しながらキャリアアップすべし、みたいなことは、終身雇用制度に染まりきったおっさんでも割と理解できるかもしれないが、実際に今の日本の社会でよし分かったとすぐに転職できる人は少ないだろう。

 

この本を読んでいて、そういうハードルが高い話はほとんどなかった。ごくごく平凡なサラリーマンでも取りかかれるような内容ばかりであった。

 

特に印象に残ったのが、人生の生産性を高めるために、睡眠の質や体調維持といったことについてもかなり言及されていたことだ。

 

まさか博之氏から、鼻炎の解消法を教えてもらえるなんて思いもしなかったものだ。

 

それくらい、なんというか「地道」なことの積み重ねという風にこの本を読んでいて感じた。

 

よくある、ベンチャー企業の社長みたいな人が、「若者よ海外へ出ろ」とか上から目線で言っているのに比べても、圧倒的にハードルが低く、怠け者の私としても受け入れやすい内容ばかりだった。

 

 

ちなみに、先の転職の話に関して、本書の中で博之氏は

 

転職しなければならない事態に備えて、年100万円貯金できるようにすること(貯金ができるような生活レベルをキープしておくこと)。十分な貯金があれば、いざというときに転職するためのハードルが低くなる。

 

というようなことを述べています。なんと、堅実なことか。

 

 

 

本著では、大きく①今後の日本の展望と、②その予測される未来の中で個人がどう生きていけばよいかという2つことを著述されています。

 

②のほうについては、↑でこれまで私が書き記してきたように、個人がこれから意識すべきことがライフハックのようにたくさん挙げられている。その内容は多岐多様であるため、もうこのくらいにしておきたい。

 

①の今後の日本の展望についてはざっくり私の言葉でまとめると以下の通り。

 

A 今後の日本は今のタコツボ状態を抜け出すことができないだろうということ

 

B そういう中で、生活のためイヤイヤ働いている人が、優秀でバリバリ働きたい人の邪魔をしないように、「ベーシックインカム」を導入すべきだということ

 

Bのベーシックインカムについては、ちきりん氏のブログがめちゃくちゃわかりやすいので、そちらをご参照のこと。

d.hatena.ne.jp

 

Aの日本はタコツボを抜け出せないということについては、

1 高齢化の進んだ日本では、高齢者の声が大きいため、年金や医療といった高齢者にとって必要な部分を切り崩せないこと(≒よってベーシックインカムの財源が捻出できない)

2 行き過ぎた規制等、「よくわからんもの」への恐怖などに由来する全体が損をする論理が跋扈しているおり、日本が成長するための選択肢をつぶしていること

3 これらに対して、これまで博之氏があった専門家はいずれも論理的な打開策を持たないこと

 

などから、基本的に日本は存続こそするだろうが、もう成長しないというのが博之氏の認識のようです。

 

確かに、日本の現状を嘆き、あーすればいい、こうすればいいと空想することは、もはや限りなく無駄に近く、それよりもまずはどうすれば個人が生き延びることができるかを考えるほうが、ずっと建設的のような気がする。

 

そのような日本の環境の中、特に不遇に立たされることになる若者が、どうずる賢くしぶとく生き延びるかということについて教えてくれる、若者の視点に立ったとてもやさしい本だと思いました。

 

 

 

※不思議なところが、こういう感じで日本の将来をほとんど見放しているようにも見える博之氏ですが、仲間内でどうやれば日本でベーシックインカムを導入できるのかについて、わざわざ試算をしてまで本気で議論をしていたりと、勘違いかもしれませんが、どこかで日本のことを思いやっているようにも感じました。とにかく、博之氏の「やさしさ」のようなものを感じた一冊でした。