【考え事】PCR検査結果の解釈から得られる統計・AIリテラシー


PCR検査は増やすべきなのか?

https://www.yushoukai.org/blog/pcr

 

■コロナがもたらす叡知

コロナ禍の折り、メディアやSNSまで不確実な情報が溢れている一方、これまでは触れることができなかった情報を、それもめちゃくちゃわかりやすく説明してくれる人がどんどん現れるのはとてもいいことだなと思っているのです。

特に、PCR検査の結果の解釈の仕方については、偽陽性偽陰性とか、感度とか、特異度とかものすごくわかりやすく説明してもらい、とても賢くなった気分を味わうことができています。

大学時代に、頭抱えながらわかりにくいテキストを解読した苦労を思い出すと、こんなにわかりやすく無料で説明してくれる神が相次いで現れるなんて、なんと素晴らしい時代かと思う。

 

偽陽性とか偽陰性とかわけわからん!

偽陽性とか、偽陰性という言葉がなぜこんなに注視されるかというと、もし検査に間違いがあったとして、その「間違いの持つ意味や重要性」は状況によって異なり、そうしたものを配慮しながら検査計画を立てる必要があるからだ。

 

■AIとのかかわり

実は、この偽陽性偽陰性とか、感度とか、特異度という言葉は、PCR検査以外にもAIの性能評価にも使われる。
というのも今のAI技術も過去のデータの蓄積から、複雑かつ不確実な事象の結果を予測するというもので、不確実であいまいな現象を推測するという意味で、PCR検査のようなものと似た性質があるためだ。

 

■例えば、

AIの画像認識で大量の製品の中から不良品を特定するシステムがあったとしよう。

この場における「偽陽性」とは不良品でなかったものを間違って不良品と判断してしまうことで、「偽陰性」とは不良品があったにも関わらず正常として見逃してしまうことである。

もし、車の部品のような人の命がかかわるものの検査をAIで行う場合、間違っても不良品を通すわけにはいかないので「偽陰性」は何としても防がなければならない。そのため、多少慎重になりすぎて「偽陽性」を増やしたとしても、検査の「感度」を高める必要がある。

一方、もしコアラのマーチに含まれる不良品を特定しようとした場合はどうだろう。あまりに「感度」高い検査をしてしまうと、消費者は気にもしないような些細なズレやかすれまで不良品として排除してしまい、製造の歩留まりを大きく下げてしまうかもしれない。なので、コアラのマーチの検査システムは「感度」の高めすぎてはいけない。

 

という具合に、これらの指標は不確実な事象の判定を行う場合にとても重要なのだ。

 

PCR検査の話に戻ると…

もっとも、PCR検査の場合は「感度」を調整することが困難っぽい。そうすると、検査自体ではなく検査を受ける集団の方をコントロールすることになる。
もし健康な人も含めてPCR検査を浅く広く実施したとすると、本当に感染している人数よりもたくさんの「偽陽性」を検出してしまい、検査陽性と判断されることの信頼性を大きく下げてしまうことになる。

なので、PCR検査を受けることができる対象をコロナっぽい症状がある人に絞ることで、無用な「偽陽性」があふれかえることによるパニックを防ぐのだ。
※詳しくは紹介している記事の説明が分かりやすくてかつ正確。

 

■不確実な事象の判定を評価する混同行列

こういう、検査陽性・検査陰性/有病・無病の組み合わせでできる4つの数字を混同行列と呼び、この数字から検査の実施方針等を検討することができる。

 

【数学】「検査で陽性だった人が実際に病気である確率は数%程度」とかいうやつ、何?
https://www.ajimatics.com/entry/kensa_yousei?fbclid=IwAR0eiMLg21i_IPSoGGOIhRjmM5TDYD17Ok0LAVYOaRLltT6O5AtWC01rMYs

 

もし、AIの時代が来るというのならば、こうした知識は次世代の教養になるのかもしれないので、是非この機会にこういうことを学んでくれる人が増えるといいなと思う。

 

 

■検査拡大派としてメディアに担がれる山中教授

※こうした議論をひも解いていくと、PCR検査はむやみやたらに拡大すべきでないということは間違いないだろうということになるのだが、そこに来てIPS研究所の山中伸弥教授がPCR検査拡大論者としてメディアに引っ張り出されることがあるように感じる。

しかし、それもよく見ると別にむやみにPCR検査をすべきだと言っているわけではない。

1.感染が疑われる方の診断のための検査
医師の判断で、速やかにPCR検査が実施できる体制が必要です。
2.院内感染予防のための検査
他の病気で入院される方や医療従事者のPCR検査が必要です。各病院でのPCR検査体制を整備するとともに、無症候であっても保険適用が必要です。
3.市中感染の広がりを把握するための検査
数千人単位の調査が必要です。PCRでは困難です。抗体検査がより適しています。感染の広がりを把握することは、活動制限の程度を決定する上で不可欠です。抗体検査は、現状では感度や特異度が不明であり、1人1人の感染の有無の判断に使うのは危険です。しかし、集団として、どれくらいの人が感染したかを推察する目的では、極めて有用です。PCR検査は、現在の10倍、100倍と検査体制を増やす必要があります。大学や民間の研究機関も活用するべきです。

これを読む限り、有病率が高いとみられる集団(要所見者、医療関係者等)についてPCR検査が不十分だと主張しており、市中検査には抗体検査が必要だと主張されている。

山中伸弥教授による新型コロナウイルス情報発信   5つの提言(更新版) 他
https://www.awaji-doctor.com/2020/05/12/%E5%B1%B1%E4%B8%AD%E4%BC%B8%E5%BC%A5%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E6%96%B0%E5%9E%8B%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E6%83%85%E5%A0%B1%E7%99%BA%E4%BF%A1/

また、山中教授は大学のリソース使ってPCR検査もっと増すべきとも主張されており、自分たちでもPCR検査はできるはずなのに、制度の壁で何もできないことの歯がゆさから、PCR検査の拡大を訴えているのではないかなとも思うわけです。